【開発秘話インタビュー】PC-壁体(日本コンクリート工業)

PC-壁体(NETIS KT-990077-V)
日本コンクリート工業株式会社


PC壁体・擁壁営業部長 小林大介(こばやし だいすけ)さんに開発秘話を聞く

施工方法など拡大で全国展開

ー PC-壁体の特長などを教えてください。

 土留め構造物用のプレキャストコンクリート(PC)である「PC-壁体」の納入・施工を1969年にスタートしました。正方形の断面形状であるPC部材を、連続して地中に沈設させ連壁を構築するものです。主に道路擁壁や河川護岸、雨水調整池、橋台基礎などで採用されています。
 製品は、最大約9メートルまでの自立が可能で、「構造物の占有幅を最小限にしたい」「重要構造物や民家に近接している」といった制約のある要望に対応できることが特長の一つです。また、自立構造の製品としては、鋼製部材が多い中で「鋼矢板よりも剛性が高く、鋼管矢板よりも経済的である」コンクリート製品といえるでしょう。


ー 開発以来、ここまで採用が進んできた理由は何だと思いますか。

 開発当時の製品から、さまざまな改良を行ってきました。一つは、矩形の断面幅について多くのサイズを追加してきたこと。現在は400~900ミリまでで6種類の製品を用意しています。
 また、過去に施工方法が中掘圧入工法に限定されていたために「PC-壁体を採用したい」といった案件に対して十分なご提案ができなかったこともありましたが、標準施工の「中掘圧入工法」に加え、硬質地盤対応の「二軸同軸式プレボーリングセメントミルク工法」や新たに「懸垂式杭打機を用いた工法」など、幅広い要望に対応した新たな工法を開発し、全国に提案できる工法へと道が開けてきました。
 2018年9月に東京・新宿区の道路擁壁工の一部で初めて採用されました。懸垂式の杭打機をクレーンに吊って施工するプレボーリング工法です。


ー 現在、懸垂式杭打機による新工法にも取り組んでいると聞きましたが。

 従来型の三点支持式杭打機では、ベースマシンとオーガーが一体構造となっており、一定の作業ヤードが必要となりますが、懸垂式杭打機では、オーガーを吊るのでクレーン本体から離れた場所での施工が可能です。高低差のある敷地や工区の隅の部分など、三点支持式杭打機が寄りにくいケースでも施工できます。本工法は特に法尻に重機が設置できれば、上部の法肩への施工も可能になりました。


ー PC-壁体の施工実績はどうでしょうか。

 2017年度末までの実績は全国661件です。ただし、施工方法が中掘圧入工法に限られていた期間が長かったこともあり、実績の約75%が比較的地盤の軟らかい関東地域に集中していました。
 近年は、プレボーリング工法の導入などで、さまざまな地盤や施工状況にも対応できるようになり、地域的な偏在も少なくなりました。また、九州や中国・四国地方に製造工場があり、生産体制を整えています。これからは、西日本での拡販にも力を入れたいと思っています。

 

ー実績を用途別で見るといかがですか。

 実績のうち道路擁壁が約7割と多く、これに河川護岸や雨水調整池などが続いています。
 今後は「海洋土木」の分野にも力を入れたいと考えています。コンクリート製品ですから、メンテナンスが少なくすみ、ランニングコストを抑えることができます。維持管理時代に入る中で、お金も、時間も、人も掛けられないといったニーズをくみ取っていきたいと考えています。

 

ー 最後に、発注者をはじめ、現場に携わる方々へのメッセージを。

 PC-壁体については、必ずしも汎用性の高い製品・工法とは思っていません。
 ただ、一定の制約条件のある中で、本製品の特長を生かし、活用いただける場面があるのではないでしょうか。実際に一度採用してもらうと、継続して使っていただけるケースが少なくありません。
 だからこそ、まずはPC-壁体を多くの方々に知ってほしいと考えています。当社としても、普段から継続的に発注者や設計事務所に向けて、知名度の向上、案件向け提案などの情報発信を行っています。当社が事務局となりPC-壁体工業会も設立し22年が経過しました。
 「自立構造の製品が必要」「メンテナンスの容易なコンクリート製品がいい」などといったニーズがあったときに本製品を思い出してほしい。地道な提案活動の積み重ねが、一層の採用拡大につながると願っております。